落花狼藉 2
三蔵は を今夜の自分たちの 部屋に運んでくると、ベッドにそっと横たえた。
布団を着せると、自分もそのベッドに座って の様子を見る。
さらさらとして手触りの髪を、すいてやりながら の様子をうかがう。
いつもより 青ざめた顔色 息はさほどには苦しくないのか、平常どおりのようだ。
悟空が着いていながら がこんなことになるとすれば、の身の内に原因があるのだろう。
敵襲や 危険にはことさらに 勘が働く悟空のことである。
あの 動物的勘の鋭さには、誰もかなわないし 頼りにしているところすらあるのだ。
悟空は とにかくを大切にしている。今までは 俺だっただろうが、が女性と言うことで
それに対する優しい態度は、比べ物にならない。
その悟空の行為が 自分の嫉妬をかきたてる時もあるのだが、
2人して出掛ける時は 安心してさえいられる。
事実 悟空のあの慌てようは、ただならぬものがあった。
三蔵は とにかく何があったのか 聞かなければならないと思い、
部屋を出ると食堂に向かった。
悟空が 八戒が用意してくれた 夕飯を あらかた片付けた所に、三蔵が 部屋から
出てきて 食堂に戻ってきた。
三蔵は 椅子に座ると 不機嫌極まりない顔で 煙草に火をつけて、
開口一番「それで何があったんだ?」と、悟空に尋ねた。
悟空は とにかく あったことを全部話したのだが、が倒れたのが ショックだったうえに、
三蔵に怒られるのではないかと思い、元気が無かった。
悟空の話が終わると、「悟空 心配しなくても大丈夫ですよ、
あなたのせいでは 無いようですからね。
詳しいことはに 聞けば解ることですから・・・・。」八戒は 悟空を見かねて 励ました。
「三蔵、は大丈夫なのか?」心配そうに尋ねる 悟空。
「あぁ、意識が無いだけのようだ。」ほっと胸をなでおろす悟空を、
横目で見ながら三蔵は答えた。
「では 今夜はもう休みましょうか、をゆっくりと休ませてあげましょう。
三蔵、のことお願いしますね。」八戒は、3人をそう促して 自分も自室に引き取った。
(てめぇに 頼まれる筋合いじゃねぇよ。は 俺のだからな。)
八戒の後姿に、三蔵は 心の中で 毒づいた。
は 深い眠りから 目覚めに向けて意識があがって来るのを、感じていた。
瞼に受ける光は 朝のものだろうか? そっと目を開けて天井を見る。どうやら 朝のようだ。
起きようと 身体を動かそうとして その重さに 昨日の記憶が よみがえって来た。
そうだ 昨日 帰り道の途中で、目の前が暗くなって 意識が飛んだのだ。
それからの記憶が自分には無い。悟空が 側に付いていてくれていたから、きっと 宿まで
運んでくれたのだろうと 思うが、みんなに きっと心配をかけただろうと思うと、気が重い。
それでも 何とか起きようと 動きの悪い身体に 力を入れた。
その動きに 気付いて 椅子に座って新聞を読んでいた三蔵は、新聞をその場に放り出して
ベッドの側に 駆け寄ると、
「、無理に起きるな。身体の具合は どうだ? どこか痛むか?」
起きようとするを 制して、ベッドに戻すと 心配そうに尋ねた。
「ええ、身体が重いだけで どこも痛まないみたい。
心配かけちゃったわね。ごめんなさい、三蔵。」
危ういながらも 笑顔を作って、答える。
「意識が無くなってからのことなんだけど、悟空が宿まで運んでくれたのかしら?」
きっと 驚いただろうし、心配しているだろうと思う。
「にも 見せたいくらい、泣きそうだったぞ。呼ぶか?」三蔵は の気持ちを察してか、
悟空たちを、呼びに行ってくれた。
廊下をバタバタっと走る音に続いて、ドアが勢い良く開けられると
「!! 大丈夫か?俺さ〜・・」バシッと ハリセンで殴られて、
悟空は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「うるせぇ! おまえ、はまだ寝てなきゃ辛いんだぞ。静かにしやがれ!」後ろから
三蔵の怒気を含んだ 抑えた声が聞こえて、悟空は しゅんとなった。
「悟空、昨日は 私をここまで運んでくれて、ありがとう。
心配かけてごめんね。もう少し寝ていれば 動けるようになると思うわ。
悟浄、八戒も 心配させてごめんなさい。誰かさんに八つ当たりされなかった?」
三蔵の後から 部屋に入ってきた2人にも は 笑顔で話しかけた。
「、無事で何よりでした。何か 食べれますか?」八戒は 顔色の戻ったを見て、
安心したように笑うと 問いかけた。
「ええ、お願いします。」八戒は 返事に頷いて、部屋を出て行った。
「悟空じゃ無くて、俺が付いていけばよかったな〜。
のこと背負って 歩きたかったよな〜。
耳に吐息感じてさ、背に胸を感じてさ、手でお尻をこう・・・」ガゥン、ガゥン・・・・・・・
悟浄の髪が パラパラッと床にこぼれた。
「貴様、早死にしたいか?」銃の狙いをそのままにして、三蔵が尋ねた。
「いえ、結構です。」それを聞いてから、三蔵は懐に 銃をしまった。そこへ 八戒が戻り、
「ご飯いただいて来ましたよ。さあ、、食べてくださいね。」テーブルに膳を置くと、
ベッドまで来て を抱きあげて 椅子まで運び 座らせた。
三蔵も悟空も 悟浄までが、その八戒の行動に 呆然としていて、
止める事が出来なかった。
も八戒の不意打ちな行動に、座ってから恥ずかしそうに 頬を染めた。
「八戒、ありがとう。」そう は 小さい声で、礼をのべた。
「どういたしまして、いつでも 遠慮なく言って下さい。
まだ 足元がおぼつかないでしょうから・・。」
八戒は に笑いかけると、「おや、どうしましたか?」と固まったままの3人に 話しかけた。
「八戒、ずり〜よ!俺が のこと 運ぼうと思ってのにさ〜。」悟空が 拗ねたように言う。
「三蔵、銃口を向けなきゃなんないのは、俺じゃなくて 八戒なんじゃねぇのか?
俺は口だけだが、八戒の場合 手ぇ出してるじゃん?」と、ブツブツ言う悟浄。
そう言われた 三蔵は、すごい目で八戒を睨んでいた。
3人のそれぞれの攻撃を、涼しい笑顔で受け止めて
「、さめないうちに食べてくださいね。」
更に 3人をあおる八戒に、(八戒 最強!)と思った だった。
「八戒のことは おいといてだ、 昨日のことを 話してくれないか。
神女のおまえが 地上であれほどに なるのは、神力を使った時くらいだろう。
昨日行った 河で 何があったんだ?」三蔵は 八戒のことは、それで終わりにしたいらしく
不機嫌ながらも 話題を 昨日のことに変えた。
食事を終えた は、食器を下げてもらうと 話し始めた。
「そうね 私の考えを聞いてもらわなくてはね。
昨日の河は、かなり汚染されていて その原因は 少し上流の薬工場だと思うの。
その薬は 桃源郷で取れる 自然の生薬の類ではなくて、たぶん 科学的なもの。
私の身体が これほどに衰弱したのが、いい証拠よ。
悟空がなんとも無かったのは、河の水に触らなかったからだと思う。
私は 何度か水に触れたから、汚染毒がまわったんだと思うの。
もう少し休んで、動けるようになったら あの工場で 働いている人に会って、
何を作っているのか 話を聞いてみるつもりよ。
河仙もだいぶ弱っていたし、放って置けないわ。」
「働いている奴に話を聞く以外には 何をするつもりだ?」
三蔵は、の身を案じて どう動こうとしているのか 尋ねた。
「そのことなんだけど、みんなは 先を急ぐ旅なんだから 先に行って欲しいの。
私は ここに残って、この件を解決してから、後を追うということで どうかしら?
これは 私の仕事だし、事実を調べたら 街や郡の行政に訴えて、天界にも報告すれば
終わることだから、みんなの手は煩わせたくないの。」
は、旅に加わる時に三蔵に言われた事を元に、この答えを出したつもりだった。
この件は 彼らの旅にとって、足かせにしかならない。そう思っての判断だった。
「「「「そんなこと 許さねぇぞ!!!!」」」」
(しませんよ)
「おや、みんなで意見の一致を見るのは、久しぶりじゃないですか?
というわけですよ、。
貴女をここに一人置いて、先に行きたくないと 意見が一致したので、
お手伝いさせてもらいます。」
八戒が みなの気持ちを 代弁する形で、に告げた。
「また 倒れたりしたら どうすんだ? 調査には俺が付いていってやるからな、。」
悟空は が倒れたところを 見たために、心配らしい。
「聞き込みだって 人数がいたほうがいいだろ?
街の可愛い子ちゃんは、俺に任せてね。」
茶化しながらも悟浄らしい 気配りを添えた言葉。
「ま、そういうことだ。」そっけないのは 三蔵。
「みんな ありがとう。とても・・・うれしいわ・・・・・、私 なんて 言ったら・・いいか・・・・・」
は 思わず涙ぐんでしまい、懐のハンカチを取り出すと 目元を押さえた。
4人は その涙の美しさに 心を打たれ しばし見とれてしまった。
それぞれが を 大切に思っている自分を、誇らしく思った。
同時に 自分以外の奴も 同じ思いだという事にも 気付かされたのだが・・・。
旅の遅れを 犠牲にしても、この人を守りたいと 4人が4人とも思った。
後に4人は このときの自分たちの判断が、正しかったことに感謝する事になるのだった。
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